自ら欺くこと忽れ。


   養生の要は自ら欺くことをいましめて、よく忍にあり。自欺とはわが心に既にあしきを知れる事を、嫌わずしてするを言う。あしきを知りてするは、悪を嫌うこと真実ならず、これ自欺なり。欺くとは真実ならざるなり。食の一事を以て言わば、多く食らうがあしきと知れども、あしきをきらう心、実ならざれば、多く食らう。是自欺也。其の余事も皆これを以て知るべし。


   [楽水の註]

   私が益軒先生の養生訓に格別に傾注するのは、氏の健康論の進め方に格別の興味を覚えるからである。今日の言葉も然りである。我々の生活はなんと自欺に満ちた生活であろう。言うことと為すことの乖離、考えていることと為すことの乖離。まさに恥ずかしい極みと言わなければならない。