山中の人の命長き理由


   山中の人は多くはいのちながし。古書にも山気は寿多しと言い、また寒気は寿(いのちながし)ともいへり。山中は寒くして、人身の元気をとじかためて、内にたもちてもらさず。故に命ながし。暖なる地は元気もれて、内にたもつ事すくなくして、命短し。(後略)


   [楽水の註]

   益軒先生は山中で暮らす人の長命な理由は、山中の気と寒気をあげておられる。



    私の遠縁にあたる者で、山中で宗教的な行を行っていた老婆がいた。人里から、4−50分も離れた山中に独りで籠もっての行である。とにかく食糧(当時は米が主食)は貴重品中の貴重品、ごくごく少量しか食べない。調味料などと言ったところで、もうほんの1滴か2滴を漬け物にかけるに過ぎない。籠もっている堂の横の空き地に野菜を作り、米は信者が奉納する米、時に餅のようなものだけ。今の栄養学から言えばとんでもない話ながら、このおばあさんは80歳前後まで生きていた。



    おばあさんの口癖は『ああ、勿体ない』である。時折、1年に1−2度我が家へ来ることがあったが、私達の食事の有様をみて『ああ、勿体ない食べ方をする』とよく小言を言われたもので、私はこのおばあさんを煙たいといつも思っていた。

    またこのおばあさん、『山で病気になったら、どぎゃんしようもなかけん、病気せんごとせんば・・・』、勿体ないと、病気しないようにがこのオバアチャンの口癖だった訳で、つまり節制の生活だった事がわかる。少食と節制これがおばあちゃんの長命だった理由だろうと私は思っている。