人生は百歳以て上寿とする。



   人の身は百年を以て期(ご)とす。上寿は百歳、中寿は八十、下寿は六十なり。六十以上は長生なり。世上の人をみるに、下寿をたもつ人少なく、五十以下短命なる人多し。人生七十古来まれなり、といへるは虚語にあらず。長命なる人すくなし。五十なれば、不夭と言いて、わか死にあらず。人のいのちなんぞこの如く短きや。是皆、養生の術なければなり。短命なるは生まれ付いて短きにあらず。十人に九人は皆みづからそこなへるなり。ここを以て、人皆養生の術なくんばあるべからず。


   貝原益軒が生きた時代は1630−1714である。当時の日本人の平均寿命は四十歳程度と考えられるから『五十なれば、不夭と言いて、わか死にあらず』と言ったのであろう。そんな時代に『人の身は百年を以て期(ご)とす』と見たのであるから、大変な識見と言うべきであろう。いまならさしづめ人は120歳までは生きられると言うようなものではあるまいか?だが、現実には百歳まで生きることは至難。九十まででも一年一年を用心に用心を重ねて生き続けても如何なものであろうか?