治療の術を頼むよりも、病にかからぬ要慎をせよ。



   凡そ薬と鍼灸を用いるは、やむことを得ざる下策なり。飲食・色欲を慎み、起臥を時にして[規則正しく]、養生をよくすれば病なし。腹中のひ満して食気つかゆる人も、朝夕歩行し身を労働して、久座・久臥を禁ぜば、薬と鍼灸とを用ひずして、病の憂いなかるべし。これ上策とす。薬は皆気の偏なり。さんぎ、じゅつかんの上薬といへども、其の病に応ぜざれば、害あり。いわんや中・下の薬は、元気を損じ他病を生ず。
(中略)やむ事を得ざるに非ずんば、鍼・灸・薬を用ゆべからず。只、保生の術を頼むべし。



    益軒先生は、薬を用いることも、鍼灸を頼むことも深く戒めている。腹8分通りに食し、適当に歩行し気を養って生活すれば、病にはかからないと言って居られる。私もその通りだと思う。



    尤も、人の体は千差萬別、その人その人に合った健康法もあろうかと思うので、絶えず自分の健康保持に工夫と努力は必要であろう。しかしそのような工夫も努力も病に罹って治す努力に比べたら、殆どものの数ではない少しの努力で事足りる筈だと思う。しかし、それでも人はいつしか死を迎える。それは天命と言うモノである。