楽水の葉隠断想 −4−

(2).聞書第一−一八一

 式部に異見あり、若年の時、衆道にて多分一生の恥になる事あり。心得なくして危ふきなり。言ひ聞かする人がなきものなり。大意を申すべし。貞女両夫にまみえずと心得べし。情は一生一人のものなり。さなければ野郎かげまに同じく、へらはり女にhとし。これは武士の恥なり。「念友のなき前髪縁夫もたぬ女にひとし。」と西鶴が書きしは名文なり。人が嬲りたがるものなり。念友は五年程試みて志を見届けたならば、此方よりも頼むべし。浮気者は根にいらず、後は見離す者なり。互いに命を捨つる後見なれば、よくよく性根をみ届くべきなり。くねる者あらば障ありと言うて、手強く振り切るべし。障はとあらば、それは命の内にもうすべきや言ひて、むたいに申さば腹立て、なほ無理ならば切り捨て申すべし。また男の方は若衆の心底見届くること前に同じ。命を抛ちて五六はまれば、叶はぬと言う事なし。尤も二道すべからず。武道を励むべし。爰にて武士道となるなり。(岩波文庫 葉隠 上 P81)